――新たに「部活」という位置付けで「Life is Tech ! School X」をリリースした経緯を教えてください。
水野雄介さん:
もともと学校向けのITキャンプは短期的に開催していたんですが、2年ほど前にその学校の先生から、放課後や土日に学内で行う活動ができないか相談があったのがきっかけです。最先端のものを継続的に学びたいというニーズがあったことからスタートしました。
僕としても先生の労働環境の改善に何らかのかたちで貢献したいと思っていて、オンライン部活はその解決策の一つだと考えています。4,5年前にはできなかったのですが、GIGAスクール構想やコロナ禍で1人1台のPCや学内のWifi環境も整備され、ハード面が整った上、先生方の心理的な障壁も下がったことで実現することができました。
――学校側のニーズから始まったのですね。
最初に1つの学校からやりたいという話があり、最終的に6校でスタートすることになりました。他の学校の生徒とオンラインで繋がることもできるし、部活動のメンターは年齢の近い大学生です。彼らと知り合うこともできるので、学ぶモチベーションが上がります。
ゆくゆくは公立も含めて色々な地域の学校が一緒に学べるようになると面白いなと思っています。
――東京の学校と地方の学校が繋がれるのはすごく面白いと思いました。
東京なら色々な人と繋がれるチャンスはありますが、地方ではなかなか難しい部分がある。学校の中にいながら、全国各地の同世代と繋がれるのはオンラインならではだと思います。
地方や離島の生徒が東京の生徒と一緒にデジタルなものを作れる場所があるのは良いことだと思います。
――東京の生徒は色々な人と出会えるとはいえ偏りがありますから、東京の生徒にも刺激になりそうですね。
おっしゃるとおりです。中高生時代で大事なのは多様性を学ぶことだと思っていて、自分の学校でしか過ごしてなかったらそれが当たり前になってしまいます。
留学などで海外に行くのが、多様性を学ぶ一番分かりやすい例ですが、東京に住んでいる生徒と地方に住んでいる生徒との話し合いによっても十分成長できると思っています。
さらに、デジタルに関することだと中学生も高校生も「できる/できない」がほとんど変わらないんですよね。部員である生徒みんなでものづくりをしていくなかで、学年を超えて繋がれる、そういう部活になるといいなと思っています。学年も場所も跨ぐのは、なかなか面白いですね。
――「Life is Tech ! School X」を始めるにあたって、高校生に対してどういうアプローチをされたのですか?
学校でチラシを配ってもらい、興味のある生徒に体験会へ来てもらいました。部活の仮入部みたいなものですね。
仮入部で体験してもらって、実際に入りたい生徒たちでスタートしました。今後は部長が出てきたり、いずれは部員が新入生の勧誘をやったりしてもいいですよね。
いまはオンラインで繋がって学ぶところからスタートしていますが、ゆくゆくは部活らしくしていきたいですね。楽しくしたいです。
――自分が中学とか高校生だったときのパソコン部のイメージとは全く違いますね。
楽しそうですよね。「他の学校の生徒と大学生と一緒にアプリ作るの!?」みたいな。
――「Life is Tech ! School X」と既存のプログラミングスクールの一番大きな違いは何でしょうか。
「Life is Tech ! School X」の方が、プログラミングを始めるときの障壁が低いです。
プログラミングスクールは習い事なので、子どもたちからすると結構パワーが必要になると思います。一方、部活は学校に入ったら「基本みんなどれかに入ろう」という雰囲気の中、数ある部活から何かを選びますね。
だから子どもたちからすると、あまりパワーをかけずに入ることができると思います。
――部活なら「ちょっと入ってみようかな」くらいの気持ちでも始められるかもしれませんね。
そうですね、その分プログラミングに触れる人数が増えることに繋がります。
今、内閣府がAI人材を年間100万人育成することを目標にしています。その礎になれるといいなと思っています。学校の授業で情報Iを習って、もっとやりたい子が部活に入る。
体育会系の部活もそうですよね。体育の授業でサッカーをやるけど、もっと上手くなりたいからサッカー部に入るというようなことです。もちろんそこからプロも出てくると思いますし、プロにならなくてもある程度できる状態になりますよね。
――他の部活にも言えることですが、経済的な理由で参加できない子どももいると思います。そういった子どもに対して今後フォローについてはどうお考えでしょうか。
もちろんやっていきたいです。今「Life is Tech ! School X」に参加している学校は私学なのですが、今後はより多くの生徒に届けたいと思っています。
いくつかやり方はあるのですが、一つは国や自治体にアプローチしていく方法。
他にはファンドを作って運用していくことで、無償にしていくことも考えられます。どこまで個人情報をもらうのかなどという問題もはありますが、所得に応じて費用が抑えられるようにシステム化することもできると思います。色々やり方はあるので、模索していきたいと思っています。ただ、オンラインになれば場所代がかからないので、コストは下がると思います。
――部活を外部へ委託することは、先生が生徒に向き合う時間が増えることに繋がりますね。
そう思います。部活の外部委託の動きはすごく活発になると思います。いずれ100人、1,000人が一緒に部活動をする時代が来る。そういう世界になると先生の稼働量も減って子供達にとってもいい。これが令和の新しい部活だと思います。
いずれにしても、先生のボランティア的な精神でやっていた部活の指導についてビジネスモデルの変革をしなくてはいけないですね。
――最後にお伺いします。毎回LeaLのインタビューでお尋ねしているのですが、水野さんにとって「学び」とは何ですか。
人生を楽しくするもの、ですね。
学ぶことで新しい世界を見ることができたり、人生に彩りをつけたりできると思っています。僕は新しい世界を見ることが好きなので。
――私たちLeaLも、学ぶことは楽しいと思って活動をしています。でも最近、知らない世界を見ることで苦しくなることもあると感じています。それがジレンマなんですよね。
それは「人間の闇の部分を見るのか光の部分を見るのか」という話に近いのかなと思います。つまり人間社会はそういうもので成り立っているので、僕は臭いものに蓋をする必要はないと考えています。嫌な気持ちになるものも当然人間社会の一部です。
あとはその中で自分自身がやれることを考えていくのが大事だと考えています。学んでいても、学びの目的が他人じゃなくなると悪いことが起こりやすいと思います。
――闇の部分を見た時に、「他の人のために何かしよう」と思える気持ちをを身につけるのも学びなのでしょうか。
おっしゃるとおりです。子ども達には、誰かを幸せにする力を身につけてほしいです。周りの人のためになる、周りの人が幸せになることやろうとすることが大切ですね。
最近、部活は先生の負担を増やすというマイナスの側面が強調されがちですが、生徒たちが自分の興味を深く掘り下げる大切な場所であることを改めて感じました。
また水野さんの「学び」についての考え方は、ここ最近私が抱えていたジレンマを解消してくれるものでした。引き続き、学びの楽しさや本質に迫っていけるよう活動を続けていきます!
執筆:佐藤 春恵