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2022.05.23
京大塩瀬先生が草潤中学校で目指した理想の学びとは? ー京都大学塩瀬隆之先生インタビュー【後編】
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中編では博物館での学びについて伺いましたが、学校教育においても、もっと子どもたちが自分で学びを選択できるようになるといいなと感じます。 そんな「学びを選べる学校」が、塩瀬先生がアドバイザーとして開校に携わった、岐阜市にある「草潤中学校」。 昨年4月に開校し、「ありのままの君を受け入れる新たな形」を目指す不登校特例校です。 開校にあたって、どんな学校を目指したのか?今の学校教育に求められていることとは? 塩瀬先生が大切にしている「学びの選択肢」についてのお話しです。
塩瀬隆之(しおせ たかゆき)先生プロフィール:
京都大学総合博物館 准教授
文部科学省中教審「数理探究」専門委員
博物館での企画展示のほか、「問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション」の執筆、
NHK Eテレ「考えるカラス」「カガクノミカタ」番組委員、岐阜市立草潤中学校設立準備アドバイザーなど、活動範囲は多岐に及ぶ。
自分で学びを「選ぶ」 草潤中学校の開校

――そもそも不登校の子どもに向けた学校を作ろうとしたきっかけは何ですか?

僕はプログラミングが得意なこともあり、先生向けに「ICTをどうやって学校で指導するか」というリクエストに応えるような講義で学校に呼ばれる機会が多かったんです。その延長線上で、岐阜市教育委員会の「5年先を行く教育」という取り組みの次の施策を考える審議会の委員にお招きいただく機会を得ました。
その審議会で駅前の廃校利用について議論している中で、教育長が「不登校の子たちに活用してもらえるような学校を作ろう」と提案した場面がありました。そこから文部科学省の不登校特例校という制度を使って新しい学校を作ろうということになりました。
その時に教育長が「塩瀬さん、理想的な学校ってどんな学校だと思う?」と聞いてくださったので、「『バーバパパのがっこう*』が理想的な学びの場だと思います」と即答しました。その絵本では子どもたちがそれぞれ自分の好きなことを伸ばすチャンスがたくさんあって、その先に本来あるはずの学校の先生や学びと結びつくという手順で子どもたちが溌剌と学ぶ姿が描かれていました。

*A・チゾン/T・テイラー著、山下明生訳の絵本。
勉強嫌いで学校も好きじゃない子どもたちに、バーバファミリーが子ども一人ひとりの好きなことや得意なことにあわせていろいろな学びを実現した理想的な学校をつくるお話し。

――実現のためにどんなことに取り組んだのでしょうか?

まず学校の中での面白い学びの場の事例をリストアップして、教育委員会の不登校特例校準備室の皆さんにお伝えしました。
「大事なことは『自分で選べる』ということ。それが理想的な学びだ」と。だから、学校という建屋に通っても通わなくても学べることが大切だし、学校の中でもそれが教室でも音楽室でもいい、さらに図書室でもいいし、もはや学校中のどこで受けてもいい。担任の先生も学校が決めてしまうのではなくて、生徒自らが合いそうな先生を選べるようにしたり、お弁当を食べる場所も職員室でも校長室でもどこで食べてもいい。とにかく「あらゆることを自分で選べる」ことを大切にした学校を作ろうと提案しました。もちろん、これを実現するのは実際には相当に難しい。それを岐阜市教育委員会の方や準備室の先生、地元の方々が一丸となって実現してくださったんです。

――「自分で選べる学校」、夢のような響きです。

これが私立の学校ではなく、公立で実現できたっていうのがすごく重要です。どこか思慮深い創業者がつくる私立の学校だったら、こんな理想的な学校も作りやすいかもしれません。でも一見すると難しそうな公立の学校でこの理想の学校が創れるのだったら、ほかの都道府県でも絶対に創ることができるはず。同じように公立で実現できる条件を整理していったので、極端な話がどこでもできるはずで、必ず真似できる仕組みになるはずだと考えました。理想的な教育の話をすると、みんなすぐにデンマークやフィンランドの素敵な学校を思い浮かべます。「すごい、いいね」とは言うものの、「あれはフィンランドだから、デンマークだからできるのであって、日本では無理だよね」と最初から諦めてしまっているのです。だから「北欧ほど遠くもない、日本のど真ん中にある岐阜市でできたのだから、もう言い訳できずに日本中で絶対できるはず」と皆さんに思ってもらいたかったのです。

「受け入れてくれる場所がある」 義務教育が教えるべきこと

――こうした教育に反対する声はありませんでしたか?

確かに草潤中に対して寄せられる声の中では、たとえば担任の先生を選べる制度に対して「合わない大人と一緒にいることも我慢することが学校だ」という声も少なからずありました。「そういう忍耐力をつけないのはおかしい」「甘やかして卒業させるのか」というものです。それについて僕が新聞やテレビの取材で毎回回答させていただくのは、「最初に人間関係でうまくいかずに学校へ行くのがつらくなってしまったのに、その生徒さんにもう一回我慢させるってこと自体が酷ではないか」ということです。

――不登校だった生徒がやっと学校に行くようになったのに、なぜまた同じことを繰り返すのかと。

大人になれば、「この人と合わないな」と思ったら別の人と仲良くなればいい、この会社が無理なら別の会社に行けばいいっていう、自分にとって大丈夫な場所がどこか他にあることを知っているので、諦めずにいられます。しかし小学生や中学生にとっては最初に入った学校と最初に出会った先生が、まるで本人にとっては地球そのものと言ってもいいくらいに広い世界で、親以外の大人は目の前にいるその人しかいないわけです。だからその人と合わないということは、もうこの場に自分の居場所がなくなるということに等しいことでもありますし、むしろ自分を責めてしまって身動きができなくなってしまいます。

――学校は、「自分の居場所は必ずあるんだよ」と教えてくれる場であるべきですよね。

「どんな状態でも受け入れてくれる場所がある」と知ってもらうことが大事で、そこを一番大切にしたいというのが草潤中の創立の理念でもありました。つまり自分を守ってくれて自分の味方になってくれる大人がいる場ですね。義務教育が「学びたいと言った子のすべてを守る」のであれば、「どんな学び方をしようが、どこで学ぼうが、いつ学ぼうが、その全部を支える場所」というのが本来の義務教育のやるべきことだと思うので、それこそ公立の学校がやらないといけないはずだったことだと考えています。だからこそ、草潤中をモデルにしてどの自治体でも実現できるようにこの経験を水平展開していきたいなと思っています。

――公教育って、いろんな子どもに対して一律に同じものを教える場所ではないなと考えます。そこに向けて公教育を変えていこうとする動きがあることは素晴らしいですし、僕らも何か力になりたいと思っています。

団体名のLeaLは「Learn about Learning」ですもんね。

――そうなんですよ!
いろいろな学びの形をこれから探っていきたいし、提供していく側になりたいです。

学べる場所とか学び方はもっとたくさん選択肢があるはずですが、「学校」としたときにみんながイメージしていることが、あまりにも画一的で選択肢が乏しすぎますよね。だからその先入観を崩すことが大事だと思っていました。学校にさえ行っていれば幸せというわけでもないし、学校に行っていれば学べているってわけでもない。博物館でも学べるし、道端でも本当は学べるんです。
もっともっと学びの選択肢を広げて、それでも「自分たちは学んでいる」と自信を持って言えるように、児童生徒にも周囲の大人にも「本来の学び」を信じてもらえるようになることが大事かなと思います。


私は自分自身の学生時代を振り返った時に、いつも何かしらの正解を考えていたなと思います。「こんなふうに絵を描けばいいかな」「黙って座っていればいいのかな」と。
ただ、その型に収まっていたからこそ楽だったなという実感もあります。
学びには選択肢がたくさんあり、自分で選んでいくことは必ずしも簡単なことばかりではないですが、選んでいくこと自体が成長に繋がり自分という人間を作っていくと思いますし、選択肢を広げる一助となるべく、私たちも活動をしていきたいです。

最後に、塩瀬先生に「学びとは何か?」といういつもの質問をお伺いしました。
塩瀬先生の考えはこちら:


思うところがたくさんあって一言では語りたくないですが、”ここ最近の”という条件付きであれば、「自らの“気づき”につける名前を探すこと」という説明が気に入ってます。
なんとなく自分のなかでモヤモヤとする違和感や気づきに出会ったとき、これを説明する言葉を無性に探したくなります。これが飽くなき探究の発露だと考えると、その「名前探し」が学びかも、と最近は考えています。
自らの気づきを抜きに与えられる名前(知識)を覚えることは、あんまり学びっぽい感じがしないので、一方的に押し付けられてもあんまり嬉しくない。右の耳から左の耳へすーっと消えてしまうようなものです。他方で、気づきだけで終わってしまうのも、もったいない。そして「探すこと」と説明している理由は、結果としてそれに名前がつかなかったからといって、学んでいないことにはしないぞ、という意味を込めてです。名づけること、としてしまうと、名前がつかなかったときに、それは結果として学んでいなかったのかとされて、やっぱり狭く捉えられてしまいそうで。

「自分の中で何かに気づくこと、それは何かと探すことが学びである」という塩瀬先生の考え方、私たちLeaLも今後に大いに活かしてまいります。
塩瀬先生、ありがとうございました!

執筆:小池拓也

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