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2022.02.28
元都教育庁次長松山さんが感じた、学校と企業の連携を阻むカベ
私たち一般社団法人LeaLは、元東京都教育庁次長の松山英幸さんに「学校と企業の連携」をテーマにお話を伺いに行きました。松山さんは、2009年から2011年までの2年間、東京都教育庁地域教育支援部長として、地域を中心とした公立学校と企業の連携を推進してきた方です。 子どもたちが学校で社会課題を学ぶには、学校がより社会にひらかれる必要があります。その一つの手段として考えられるのが、企業との連携です。 松山さんが東京都での実践を通じて感じた、学校と企業が連携する際の課題についてのお話です。
松山英幸(まつやま ひでゆき)さんプロフィール:
1983年、東京都庁に就職。主に教育畑を歩み、教育庁の主要ポストを歴任し、主幹教諭制度の導入や副校長の多忙化対策を担当。
2014年から2016年まで教育庁次長として、いじめや体罰防止への取組みを推進した。
2021年、学校を「組織」として捉え、そのマネジメントの課題と解決策について論じた『学校の組織マネジメント』を上梓。現在、会社役員。
教育現場で企業と連携する難しさ

ーー松山さんが学校と企業の連携を強化するためにどんなことを行ってきたのか教えてください。

松山英幸さん:
『学校支援ボランティア推進協議会事業』(現『地域学校協働活動推進事業』)という取組の中で、企業のさまざまな知見を学校の現場に取り入れ、子どもたちの興味関心を高めるための仕組みづくりを推進しました。
教科書で理屈だけを教わっていてもなかなか頭に入ってこない子どももいるので、デスク上の勉強と合わせて相乗効果を高めることを目的にしています。
ただこれもいろいろな失敗例があったうえで、今の制度ができています。

ーー例えばどのような失敗があったんでしょうか。

当初は、企業が営利性を求め、授業の最後に自社の商品を紹介してしまうことがありました。学校側は「教室の中まで営利を求めるのか」と引いてしまって…。それがよくあった失敗でしたね。
他にも、教育課程を知らない企業の方に授業をしてもらう難しさもあります。
都立高校で企業の社長を呼んで経営について授業をしてもらったときに、説教話に終始してしまったことがありました。(笑)

ーー説教話では生徒も引きますね…。

これは極端な例ですが、企業の方は、学校が年間計画で動いていて、教育課程に沿って授業をしなくてはいけないことを知らないんですよね。
例えば子どもたちに電気自動車に乗ってもらう授業を想定すると、乗ってもらって「はい、終わり」というわけにはいきません。
事前に「電気自動車とは何か」とか、「世界の流れはこうだ」とか、そういったことを勉強した上で実際に乗ってもらって、事後の授業で振り返りを行う。
この流れを作るのが教員にとっては負担で、自分で教えた方が早いと思ってしまいます。

学校と企業とをつなぐコーディネーターとは?

ーー企業と学校が直接連携するのって難しいんですね。

だから、授業の形にするための調整役が必要になります。
地域の方にコーディネーターという役割を担ってもらっています。
コーディネーターはある程度学校の仕組みや教育課程の中身をわかっているので、企業の教育プログラムを授業で使える形に調整してくれます。
都の教育委員会としても、研修の場や、コーディネーターや教育委員会関係者が協議する場を設けるなどして、育成する事業を行なっています。

ーーコーディネーターには、どんな方が多いのでしょうか?

色々な方がいるんですが、PTAの役員のように学校と深い関係にある方が多いです。みなさん、ほとんどボランティアとしてやっているので、学校の中の活動以上にもっと発展的にやろうという意識を持っている人が多いですね。
ただ、教育や社会問題に熱心な人たちのいる地域はこうした意識が浸透しやすいですが、地域によっては副校長が会議のセッティングから全て行っていることもありました。

教育データの活用こそ優先すべき

ーーなるほど、住民の意識に左右される部分もあるんですね。
  では学校と企業は、どのようにして連携していくと良いですか?

統計顧問を雇ったり、データ会社に委託したりするなどして、教育データの活用を行うべきだと思います。企業のプログラムや学習コンテンツを取り入れることと同様に重要なことだと思います。
よく議会の答弁で「〇〇という活動をしたら子どもたちの目が輝きました」というようなものがあるんですが、そんなことを行政の場で答弁しても仕方ないんです。そうではなく、ほぼ属性が同じグループ同士で『取組を行ったグループ』と『行わなかったグループ』とを統計的に比較して、施策の効果を測らなくてはいけないんですよね。

松山さん「子どもたちも目が輝きましたと言っても仕方がないんです。」

ーー確かに、施策の効果を測るにも客観的なデータが必要ですよね。

今後の教育を良くするためには、社会的な属性と成績とをリンクさせて『教育に不可欠な要素は何か』、『重要な影響を与えている要素とは何なのか』ということも分析しなくてはいけません。もちろん匿名性に最大限配慮した上で、ですが。

ーー国民の理解を得ながら進めていくのはかなり難しそうですね。

社会的な議論が必要になりますね。
たとえば全国学力・学習状況調査(学力テスト)の児童生徒質問に『世帯の所得』を入れたら大論争になるでしょうし、衝撃的な結果が出てさらなる社会問題になるかもしれません。
今後、教育現場におけるデータの活用を行うのであればそのタブーに挑む必要はありますが、時代の後押しもあるためできるのではないかと思います。


松山さんのお話を聞いて、公教育と企業とが連携する際の課題はまだまだあるなと感じました。より多くの人に学びの楽しさを伝えるために、学校現場、企業双方にメリットがあり、持続可能性のある事業を模索していきたいと思います!
教育現場でのデータ活用についても、賛否両論はあるとは思いますが、課題がどこにあるのかを客観的に捉えるためには、データを上手く利用することも考えていかなければいけないと思いました。

最後に、恒例の質問を松山さんにも聞いてみました。

ーー松山さんにとって学びとはなんですか?

学びとは、自分の世界を広げることだと思います。
色々なことを勉強することによって、活動範囲ややることがどんどん広がっていきます。
例えば、私ぐらいの年代は、今のように英語をちゃんと習っていないんです。
しかし、社会人になって都の教育委員会が英語教育を推進することになり、真剣に英語を勉強しました。英語が読めるようになると海外の情報に直に接することができるんですね。
今までは人の話を間接的に聞いていたものが、海外の情報を直接得られることで、私自身の世界もかなり広がりました。
特に若い人には、そうやって視野を広げてもらいたいなと思いますね。

ーーありがとうございました

執筆:佐藤春恵

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