interview_thumbnail_goto_02
2022.02.28

「受験の道具じゃもったいない」教科書と社会をつなげるアイデア  ー Libry CEO後藤匠さんインタビュー【後編】

〈 前の記事へ
教科書や問題集などデジタル教材のプラットフォームサービス「Libry(以下リブリー)」は2022年4月に”生きる力”を育むためのサービスをリリースします。
株式会社Libry CEO後藤匠さんへのインタビュー後編では、私たちLeaLとしても課題感を持っている「学んだことと社会をどうつなげるか」ということをテーマに、お話を深めていきました。

受験の道具として勉強するのはもったいない

ーーリブリーでは今年の4月から “キャリア教育に関するコンテンツ”を加えるそうですね。

後藤匠さん:
はい。まずは一冊のデジタル書籍として提供を開始しますが、将来的にはリブリーで教科書や問題集をめくっていると、その単元の知識を使って仕事をしている人のインタビュー記事に飛べるようになります。

ーー例えばどんな記事があるんですか?

「首都圏の電車混雑がどのような工夫で緩和されているか」というテーマの記事も掲載する予定です。電車のダイヤは偉い人が勘で決めるわけではなく、計算する方法があるんですよね。
しかもその方法って高校生が一切分からないような高度な知識だけを使っているのではなく、方程式や関数、グラフの知識を使っているんですよ。
「自分たちが学んでいることでそんなものまで計算できるのか!」と分かったら、ちょっと楽しいじゃないですか。

ーーとても面白いですね。

学習指導要領って大人たちが一生懸命考えて「この単元は残す必要がある」と判断して残しているわけですよ。そこにはこれからの社会を担っていく子どもたちに獲得してほしいという願いや、社会に役立っている何かしらのワクワク感があると思っています。
それを知らないままただ受験するための道具として学習をしていくのはもったいないですよね。
だからリブリーがちょっとチャーミングにつなげられるといいなという思いで、”キャリア教育に関するコンテンツ”を作っています。

キャリア教育に関するコンテンツ イメージ図

勉強を楽しいと感じている大人はたくさんいる

ーーそもそも後藤さんはなぜ「学習と社会をつなげたい」と思ったのですか?

大学受験の予備校で出会った化学の先生のおかげで、僕は受験勉強が楽しかったんですよ。
その先生は「勉強することで社会の色々なことが分かるようになって、それこそが面白い。大学受験はおまけだ。」ということを、熱く語ってくれました。その影響で「他の科目は社会でどんな役に立っているんだろう?」と考えるようになったんですよね。
そうすると勉強すればするほど世界に色がついて、8ビットの世界が64ビットになっていく感覚があって、すごく楽しかったんです。

ーーそういう思いを子どもたちに経験させたいということなんですね。

このコンテンツづくりに協力してくれた皆さんも「めちゃくちゃいい企画だね!ぜひ協力したい!」と引き受けてくれました。
昔は勉強をつまらないと思っていたけど、大人になって「勉強って大事だし楽しい」と思っている人って世の中にはいっぱいいるんだ、ということを実感しました。
その人たちの熱をそのままコンテンツに落とし込んで、子どもたちに届けられるといいなと思っています。
別に全部好きになる必要はなくて、1つでも本当に心が震えるものに出会えたらその子って幸せなんだろうなと思っていて、そのきっかけになり得ると考えています。

大人が情熱を伝えたら子どもは自分の人生を開ける

ーー大人の熱が子どもに伝わると化学反応が起こりそうですね。

それを痛感した経験があって。
とある県立高校でセミナーをやったときに「日本の未来は明るいと思う人、手をあげて!」と声を掛けたら、300人くらいいたのに10人も手が挙がらなかったんですよ。
明るくないと思う理由を聞いたら「移民問題が…」「AIに仕事を取られちゃう…」「年金がもらえないかもしれない…」とどんどん出てきたので、僕はこう言ったんです。
「20年後の未来をつくるのは君たちなのに、未来のことを信じないみんながつくった未来なんか、つまらないものになるに決まってる!」「まだまだ時間はあるんだから、自分たちでワクワクする未来をつくればいい!」みたいな感じで。

ーー子どもたちはどんな反応だったんですか?

セミナーの後に生徒がたくさん来てくれて、「夢のために頑張ります」と言ってくれました。中には「女優になる夢を諦めて受験勉強しようと思っていたけど、もう一回頑張ってみます!」と言う子もいて、それは少し親御さんには悪いことしたかもしれないけど‥。(笑)
自分を取り戻した子どもたちがいっぱいいました。
大人が熱量を持ってパッションを伝えたら、自分の人生を開ける子どもっていっぱいいるんだと感じましたね。

ーー後藤さんの熱量が子どもたちを動かしたんですね。

その場にいた先生も、教育実習生のときに考えていた教育に対する夢や希望を語ってくれたんですよね。
それこそキャリア教育に関するコンテンツは先生たちが「読みたい!」と言ってくれることも多いんです。
先生たちが学習と社会のつながりをスッと理解できるようになったら、先生たちの授業も変わるじゃないですか。
そこをつなげるのはやっぱりテクノロジーの役割なんですよね。

学びとは世界の解像度を上げること

ーー最後の質問です。後藤さんにとって「学び」とはなんですか?

僕にとっての学びは世界に色をつけて、世界の解像度を上げるためのものですね。
同じニュースを見ても「こういうことが起きたんだ」とだけ感じる人もいれば、ニュースの歴史的背景を感じて涙する人もいる。
同じ情報に触れていても得られる情報量も、心がどれだけ動いたかも、その人の持っているものによるんですよね。学べば学ぶほど背景や文脈を読み解く力がどんどん身に付くと思っています。
学ぶことは世界の解像度を上げて、ワクワクする世界の中で生きられるようにするためのものだと思います。

ーーありがとうございました。


筆者も「学ぶことは大切で楽しい」「もっと勉強しておけばよかった」と思っている大人の1人です。そんな大人のワクワクと、ほんの少しの後悔をイキイキと伝えることは、子どもたちが学びを楽しむきっかけになるのだろうと感じました。
そして、彼/彼女らが大人になった時には「たくさん勉強してよかった!」と、後悔ではなく更なるワクワクが生まれることを期待して、これからも学習と社会をつなげる方法を考えていきたいです。

執筆:佐藤春恵

Twiterでこの記事をつぶやく
この記事をつぶやく
Facebookでこの記事をシェアする
この記事をシェアする
〈 前の記事へ