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2022.02.28

デジタル教科書が”なめらかさ”と”生きる力”を大切にする理由 ーLibry CEO後藤匠さんインタビュー【前編】

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中学・高校向けのデジタル教材プラットフォーム「Libry(以下リブリー)」は、従来のアナログな勉強方法の優れた部分を残すことで学校現場に馴染み、全国600校以上で導入されています。
リブリーを提供している株式会社Libry CEO後藤匠さんは「教育を本当に変えるため、”なめらかさ”にこだわっている」と語ります。
インタビュー前編ではなめらかさへのこだわりから、今年の4月にリブリーに実装される”生きる力”を育む機能やキャリア教育コンテンツへの思いまで、たっぷりお話を伺いました。
後藤匠(ごとう たくみ)さんプロフィール:
株式会社Libry(リブリー)代表取締役CEO。
東京工業大学社会工学科在学中に起業、中高生向けの学習サービスを開発。
出版社と提携し、教科書や問題集などをデジタル化している。

教育現場の否定から始めたら絶対に良くならない

ーーまずリブリーがこだわっている“なめらかさ”について詳しく教えてください。

後藤匠さん:
教育を変えたいと思った時に、「自分の考える『あるべき姿』を作ってそこに人を巻き込んでいくのが本当に良いことなのか」と思ったんですよね。
そもそも教育自体が過去の賢人たちが蓄積した知に対するリスペクトが原点だと考えています。だから教育を支えている人や仕組みを最大限にリスペクトして、寄り添うところから始まると思うんです。
その上で現場の人たちが「変えたい」「変わりたい」と思っているところを変えて、「残したい」と思っているところを残す。そうした方が僕は良い社会になるし、本当に変わると思っています。
そういった意味で“なめらか”というところにこだわっていますね。

ーー教育現場の声に耳を傾け、なめらかに変化させていくということですね。
  私たちも現場の声なくしては良いコンテンツは作れないということを日々感じています。

出版社がこれまで手塩にかけて育ててきた教科書や問題集には、様々なノウハウが詰まっていると思うんですよ。そこで蓄積されてきた知見を逆に生かさない理由はない。
テクノロジーの力を使ってもっと便利に使えるようになったら、何て素晴らしいことなんだろうって感じます。

ーー教育を変える話ってつい悪いところばかり見てしまう部分もあると思うのですが、
  後藤さんのお話を聞くと「良いところがあるからそこを伸ばそう」という意識を感じます。

学校の先生と話しているとやはり子どもへの愛が深いじゃないですか。その先生たちの否定から始まってしまったら、日本の教育は絶対に良くならないと思います。
みんな子どもたちの幸せを願って仕事をしているのに、忙しすぎたり色々なしがらみがあったりして歯がゆさを感じているんですよね。
だったらテクノロジーでその歯がゆさを取っ払うだけで良いと思っています。

ーーテクノロジーは支える役なんですね。

教育においてテクノロジーが主役になることはなくて、主役は人。学びにおける主役はやっぱり子どもたちだし、それを支援する主体者は学校の先生であってほしいです。
色々な制約の中で、先生たちの愛情とかパッションがいかんなく発揮できるようにテクノロジーで支援する。あくまで黒子なんです。

デジタル教科書が知識偏重ではいけない

ーー今年の4月にリブリーは学習者用デジタル教科書にも対応し、“生きる力”を育むための機能やキャリア教育に関するコンテンツがリリースされますね。なぜ、“生きる力”をテーマに設定されたのですか?

まずデジタル教科書のプラットフォームとしてどんな機能を搭載するか考える時に、「教科書とはそもそも何だ?」という問いに立ち返ったんですよね。
教科書って学校教育法の中で必ず使用しなければならないものとして規定されているんですよ。「そんなに強制力をはたらかせられる理由って何だ?」と自問して、日本の教育の目標を達成するのに大きく貢献するものであるからだと、僕は結論として行き着きました。
次に僕はデジタル教科書のプラットフォームとして“知識・技能”に偏っていいのかという壁にぶつかりました。
学習指導要領では“知識・技能”に加えて、”思考力、判断力、表現力”と”学びに向かう力・人間性”という3つの大きい資質能力をバランスよく醸成していくことを目標にしているんですよね。
そんな中、デジタル教科書として「知識に偏っていいのか?」と問い直し、僕は「それだけでは十分ではない」って思ったんです。
だから”思考力、判断力、表現力”や”学びに向かう人間性”もリブリーの中で培えるようにして、「日本の教育は“生きる力”を育てるところに向かうべきだ」と示すことに意味があると思いました。

ーー具体的には”生きる力”を育むための機能にはどのようなものがあるのですか?

まず”思考力、判断力、表現力”に関しては、”ルーブリック評価支援”機能を搭載しています。
これまで高校では観点別評価は積極的に行われていなかったのに、4月には新学習指導要領が適用され”思考力、判断力、表現力”を評価しなくてはいけないんですよ。
先生に話を聞いたときに「まず思考力などを観測するための仕組みを作らないと、子どもたちの力を養うこともできない」と言われたんですね。
だから導入に手間がかかるルーブリック評価の入り口をテックで支援して、先生が適切に評価できるきっかけにしたいと思ってこの機能を作りました。

ーー”学びに向かう力・人間性”についてはいかがですか。

普段勉強していることが社会とどうつながっているかをイメージできる”キャリア教育に関するコンテンツ”をリリースします。
社会とのつながりを感じながら知識を習得する姿勢を持つことで、学びの楽しさや実学として学ぶということを支援できるといいなと思っています。
将来的には教科書や問題集をパラパラめくって三角比の勉強をしようとすると、三角比の知識を使って仕事をしている人のインタビュー記事にスムーズにアクセスできるようになることを想定しています。
そうすると子どもたちは「自分が学んでいることは社会に生きるんだ」とか「こんな仕事があるんだ、面白そう」と思ってくれるかもしれない。
こうして子どもたちを教科書という一見閉じた世界から、社会につなげてあげたいなと思って”キャリア教育に関するコンテンツ”を作っています。

ーーありがとうございました。


後藤さんのお話は子どもたちや教育に携わる全ての人に対する愛とリスペクトに溢れていました。私たちも自分たちの持つ情熱を形にしていくために活動を続けていかなくてはと、改めて気持ちを引き締めました。
後編では、インタビューの中で特に盛り上がった”キャリア教育に関するコンテンツ”について、さらに詳しくお話を伺っています。

執筆:佐藤春恵

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