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2022.02.28

スタサプ山口さんが考える学校改革と企業改革の共通点とは

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リクルート山口文洋さんへのインタビュー、後編のテーマは『企業経営者目線からみる教育改革の問題点』。
時代の変化に合わせて教育環境をアップデートしていくため、現在も様々な教育改革が行われています。しかし、なかなか上手く行っていない面があるのも否めません。リクルートという大企業の中で、様々な事業変革や事業再生などにも携わってきた山口さんから見て、現在の教育改革にはどのような問題点があると思うかを聞いてみました。
山口文洋(やまぐち ふみひろ)さんプロフィール
株式会社リクルート 執行役員 プロダクト統括本部 教育・学習
ITベンチャー企業を経て、2006年リクルートへ入社。社内の新規事業コンテストでグランプリを獲得し、2011年に『スタディサプリ』の前身『受験サプリ』をリリース。

学校は大企業病に冒されている

ーー現在、様々な教育改革が試みられていますが、山口さんはどう思われていますか?

山口文洋さん:
よく大企業病って言われるものがありますよね。会社も従業員のマインドセットも変わらないといけないけれど、仕事が溢れかえっているからそんなことを考えている暇がないという状態。
今学校がまさに大企業病に冒されているような状態だと思うんです。教育の変革期にあり、学校現場ではやらなくてはならないことで溢れかえっている状態ですよね。

余剰ができないと新しいことはできない

ーー先生の忙しさの問題もよく耳にしますよね。

会社の従業員マネジメントと、学校の教師マネジメントというのは本当に一緒だと思うんです。
会社を正しく経営するためには、何か新しいことをやるときに選択と集中のように、ビジネスやタスクを減らすというのが先にくるんですよね。引き算をするから余剰ができて新しいことができる。そして新しいことをやる前に新しいことに挑戦しないといけない理由をちゃんと全従業員に共感、腹落ち、理解させるイベントを時間を掛けて丁寧にやるんです。
一方通行ではなくて、従業員の「俺らはそんなこと納得いかないぞ」とか、「俺らにもこういう課題とか意見があるんだよ」というのを全部聞いた上で、「でもこんな時代で皆さんも僕らも変わらなきゃいけない、なぜならば…」という説明を丁寧にして従業員に理解してもらって、初めて変わっていくんです。

ーー企業の改革と同じようなプロセスを学校でも踏むべきということですね。

学校も本来ならば教育変革するときには、無駄なものをあぶり出して、そういうものは全部やめる必要がある。そうすると、まず時間ができる。その上で「皆さんの従来やってきた教師という役割も、こういいところは残しつつ、ここを変えませんか」ということを話す。それとともに、彼らの思いや意見をくむ時間も取るべきなんです。すると「最初はよく分かんなかったけど、なるほどね。だったら私も変わらなきゃな」と分かってもらえて、「じゃあこの挑戦に私は乗ってみる」という形で現場の教師の人たちも当事者意識を持って変わり始めると思うんです。

現場への権限委譲が当事者意識を生む

ーー裏を返すと、みんなが当事者意識を持たないと改革は難しいってことですよね?

最初は先生達も圧倒的な当事者意識を持っていて、改革を全部受け取ろうとすると思うんです。でも、あまりにも色々なものが降ってくるので、どうすればいいか分からなくなる。そんな変革が5年10年に1回起きても、大体ブームで終わるんですよね。対応しきれないと結局ブームで過ぎていくということが、ベテランの先生ほど分かっているので、今回のICTも受験制度改革も「どうせ5年ぐらいで何も変わらず残らないよね」という感覚をベテランの先生ほどお持ちなんですよね。僕らが「今から教育も150年ぶりの変革をやりましょうよ」と言っても、どこかで「そんなの10年前も20年前にあったな」と思っていらっしゃる先生もいると思います。

ーーどうすれば、こうした状況って変えられると思いますか?

日本の教育業界は、もっともっと権限委譲をした方がいいと思ってます。例えばリクルートという会社の強さは、現場に対する圧倒的な権限委譲なんです。上から命令が降ってくるのではなくて、自分の仕事の領分は自分の仕方で責任を取ればいいというふうにしています。「個の尊重」と言っていますが、従業員ひとり一人の情熱に投資をしているんです。だから教育業界もトップダウンではなくて、もしかしたらボトムアップの方がいいかもしれないですね。

教育学部のカリキュラムから改革するべき

ーー最後に、山口さんが「ここを改革した方がいい」と思うところはありますか?

教育改革の一丁目一番地は「教師とは何者である」という教育学部の教師の定義と、その教師を育成するためのカリキュラムの抜本的改訂だと思うんです。
教育学部に入ったら、英語・数学・理科・社会をどう専門的に教えるかということを学ぶと思うんですが、そういうことは専門課程の1割でいいと思っています。その代わりに心理学や発達形態といった、子ども達に寄り添うコーチやメンターになるための専門知識を教えたり、研修を行ったりした方がいいと思います。「教科について教えることより、子どもに寄り添うことの方が皆さんの本分なんですよ」という形で学校現場に行ってもらう。そうすることで、生徒へ向き合う時間のポートフォリオも変わり、一人一人の生徒に寄り添う教師というのが主流になってくるのではないかなと思っています。


教育に関する改革をどう進めていくべきかということに対しては、様々な意見があると思います。しかし、新しいことをするには、まず“余剰”を作らないといけないというのは確かです。ただ、何かを捨てることは簡単なことではありません。だからこそ、どうやって“余剰”を生み出していくかを社会全体で知恵を出し合って考える必要があると、山口さんのお話を通して再認識しました。

執筆:LeaL 代表理事 楢崎匡

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