ーー教育の中で今改めて山口さんが感じている格差はありますか?
山口文洋さん:
学びに対するモチベーション格差というのが、日本の中でも、世界と比べても出てきている気がしています。
日本の初等中等教育の教育環境では「学ぶって楽しい」ではなくて、「学ぶってやらされている」とか「つまらないけど頑張らなきゃいけない」と感じている子供たちも少なからずいると思うんです。
全ての人は、学びたいという根源的な欲求を絶対に持っているはずですが、幼少時から含めて、その芽が叩かれてしまっている気がします。
そしてそのことが結果として「仕事は我慢して働かないといけないもの」というマインドセットに繋がってしまっているので、そもそもの学びに対するマインドセットから変えないといけない。そういう考えが僕の根幹にはあります。
ーー「学ぶってやらされている」と思ってしまう原因は、どんなところにあると思いますか?
一番は親がどこかで、子どもに対して理想像を無理やり押し付けていることだと思います。例えば僕も子どもの頃はゲームをやりたかったし漫画も読みたかったけれど、親にダメと言われていました。でも親がああだこうだ言っても、その網をかいくぐって好きなことに没入していたし、その没入した趣味の中に深い学びがあったと思います。
ーー好きなものだからこそ、本気で学ぶということですね。
夢中だからこそ自己目標設定ができて、でも理想が高いから挫折を感じて、そこで悔しいから徹底的に内省をして次の目標セッティングをしてというように、好きなものが中心だったから経験学習サイクルも上手く回っていたと思います。
逆に好きなことはあっても、親から「それはダメ」「これをしておくべき」となると、本当に指示待ち人間になってしまう。
ーー親はどんなスタンスで子どもに関わるのがいいと思いますか?
子どもが何かに興味を持ったときに、大人はそれを信じてフォローしてあげるだけ。どうなるかは分からないけれど、子どもの可能性が伸びる時間を与えてあげることが大切だと思います。
自分が好きなことに挑戦するって大概は失敗するんですよ。なぜかというと理想が高すぎるから。でもそういう経験をすると失敗が当たり前だと思うようになるんです。そうすると今度は、実は失敗の方が学びが多くて、失敗は嬉しいと思うようになる。ちょっとした成功なんて嬉しくなくて、それは誰かが成功だと言っているだけで、自分の中では成功なんて存在しないという感覚になる。こういう体験を積んだ人は大人になっても挑戦者やリーダーになれるんですよ。
ーー子どもが夢中になっていることを親が尊重するというのは本当に重要だと思うのですが、一方で親のマインドセットを変えるのは難しい部分もありますよね?
非常に難しいですね。親だけの問題ではなくて教師の問題でもあって。教師も親も大半が子ども時代に勉強を無理やりやらされていて、もしかしたら今の仕事でさえも歯を食いしばってやるものと捉えているからこそ、子どもにも同じものを強いてしまうのかもしれないですね。
だから、親や教師のこれまでの固定概念を変えていく活動をしないといけないと思っています。現状でも、いろいろな形で保護者の方への講演や教師向けの研修があると思うんですけど、そういうものをどんどんオンライン化していく必要があると思います。オンラインなんだけれどパッションも伝わるし説明も分かりやすいような、本当に親や教師の心を動かしたいという思いで、コンテンツを作っていきたいですね。
それと同時に子どもに対しては、オンライン上での「このお兄さん、お姉さんカッチョイイな」「自分の父ちゃん母ちゃんとは違うけど、僕の人生はこうなりたい」と思える人がいるというような、出会いや接触の場を作っていかないといけないと思います。
ーー最後の質問です。私たちLeaLは「学びについて学ぶラボ」と称しているのですが、山口さんにとって「学び」とはなんですか?
楽しむってことじゃないですかね。主体的に能動的に「何かをやりたい」と思うことは、「学びたい」と思うこととほぼ同じだと思っています。「何かをしたいという衝動が、もう既に学びである」というぐらいの認識に日本人がなってくると、勉強するという言葉や学ぶという言葉が、もっとポジティブなものに捉えられるようになるのかなと思います。
LeaLも山口さんと同じく、学ぶことは根本的には楽しいものだと考えています。自分が夢中になれるものの中にこそ深い学びがあるという山口さんのお話にも、とても共感しました。
どうすればもっと多くの人が山口さんのように学びを楽しめるようになるのか、これから先も色々な方のお話を聞きながら考え続けていきたいと思います。
山口さんへのインタビューは、後編に続きます!
テーマは『企業経営者目線から見る教育改革の問題点』です。お楽しみに!
執筆:LeaL 代表理事 楢崎匡