瀬戸:柿沼さんはモンゴルでどんな研究をされていたんですか?
柿沼薫さん:
修士時代の研究は、モンゴルにおける持続的な放牧地の管理方法を明らかにすることが大きな目的でした。モンゴルでは遊牧民の人たちが草原で家畜を飼いながら生活をしていますが、家畜が多くなりすぎると草原が荒れてしまうんです。どれくらい家畜は飼えるのか、バランスを考えることが非常に大事になります。
瀬戸:なるほど。
多くの生態学の研究は草原に着目して植物の状態を検証しています。しかし、私は放牧地管理を考えるのであれば、遊牧民の人がどのように使っているかを理解することも大事だと考えました。そこで、遊牧民の人たちに植物に関することをインタビューしながら植物の状態を検証しました。遊牧民の知識と科学的な知識を合わせた放牧地管理のあり方について研究していました。
小池:環境側も調べるし、人間側からもアプローチしていくんですね。
そうですね。15年ほど前、私が修士の時は聞き取り調査を行うのは少なくとも日本ではあまり一般的ではありませんでした。モンゴルの草原の調査をすると、家畜が多いところから少ないところにかけてグラデーションが見られます。例えば水場は家畜がたくさんいるので、家畜が草を食べる圧力、放牧圧が高いんです。一般的には水場から離れるほど放牧圧が低くなるというグラデーションが見られます。
瀬戸:放牧圧って言うんですね。
そのグラデーションの中で植物の調査を行うと、放牧圧が高い場所では家畜が食べないような植物が多いことが分かります。逆に家畜の数が少なく放牧圧が低い場所ではいわゆる多様性が高いような、お花が咲くような環境になっていくということが分かっていきます。
次に遊牧民の人たちと一緒に草原に赴き、それぞれの草原をどのように評価するか聞き取り調査を行いました。
小池:遊牧民の人たちにはどのようなことを聞いていくんですか?
それぞれの草原が良い放牧地かどうかを理由と併せて聞き取りました。すると、植物の種類や量、草丈によって草原の良し悪しを評価していることが分かりました。
本編では、モンゴルでの生態系の多様性と遊牧民の利益のどちらも尊重するための研究や、柿沼さんが取り組むグローバルな環境問題への研究に迫っています。また、モンゴルの遊牧民たちの生活についても「おまけ」回で伺いました。ぜひお聞きください!