瀬戸:脳を透明にするってどういうことなんでしょうか。透明にするライトを人の頭に当てて覗き込む様子を想像したのですが…。
田井中一貴さん:
生きた人の脳を透明化するのではなく、亡くなった生物や人の脳を検体として使わせていただいています。
小池:脳を取り出して薬品につけるみたいな感じですかね。
瀬戸:理科室で薬品につけられた臓器とかありますが、そのような感じでしょうか。
そうですね。
理科室には不透明な検体が置いてありますが、あれが全く見えない状態です。完全に脳を透明にして、脳の中の細胞の様子を観察します。
瀬戸:透明な脳をどのように観察するんですか。
観察したい細胞にあらかじめ色を付けてから脳を透明化すると、観察したいものだけが見える透明な脳が出来上がります。そこにレーザー光を当てて顕微鏡で観察するというのが一連の手順です。
レーザー光というと光線をイメージすると思いますが、私たちが使っている特殊な顕微鏡では、レーザー光線を薄く平面上に広げてシート状の光を透明の検体に照射します。
小池:ピピピッて平面のレーザーがスキャンするシーンが映画でよくありますよね。あれを実際にできてしまうということなんでしょうか。
その通りです。薄く広げたレーザーをまっすぐ照射して真上から顕微鏡で観察すると、中の断面が綺麗に観察できます。それを上から下までスキャンすると全ての断面が取れるので、それを解析して3Dに再構成することで立体画像を得ています。
小池:MRIなどは脳を透明にせずに輪切りにしていますが、それとは何が違うのでしょうか。
解像度が違います。
MRIやCTは生きた状態でデータを取れるという最大の利点はありますが、一つ一つの細胞を観察することは難しいんです。脳を透明化すると一つ一つの細胞まで観察することができます。
瀬戸:この研究はどのようなことに活かされるんですか?
例えば、認知症などの研究に大きく貢献できると考えています。
認知症の病態には脳の血管、特に細い血管が大きく関連していることが分かってきています。ただ血管は立体的に入り込んで脳の中を走行しているので、その構造を二次元で想像するのはとても難しいです。透明化して立体構造を見た上で細かいところも観察することができれば、そういった病気の理解に大きく貢献すると考えています。
瀬戸:医療の研究にも役立つノウハウなんですね。