瀬戸:「パラアスリートがオリンピックの金メダリストよりも速く走る」という目標実現のためにはどんなことが必要だと考えていますか。
遠藤謙さん:
1980年頃、スポーツ用義足ブレードという技術のイノベーションが起こり、タイムが1秒、2秒というレベルで速くなった時期がありました。でもイノベーションが起こる要因はまだいくらでもあると考えています。僕が一番貢献できるのは技術的な側面なので、これからも研究を続けてもっといい義足を選手に使ってもらいたいと思っています。
一方で、障害と貧困の問題にも結びつくのですが、障害のある人がスポーツをするのは難しいという現実があります。日本でもそうですし、途上国ではもっと難しい。つまり競技人口がオリンピックより圧倒的に少ないんです。でもポジティブに考えれば、現時点でこれだけ速いので障害のある人全員が走り始めたらどんどんタイムが縮むのではと期待しています。ですので、まずは競技人口を増やすことが大事だと思っています。
小池:ワクワクしますね。
障害があったとしても子どものときから楽しく走れる環境があれば、パラリンピックを目標にしやすい。アスリートを目指したいと思った時に育成するプロセスがあれば、成長する人が増える。アスリートとして成長したときにさらに速くなるための強化プログラムがそれぞれの国にあれば…。
この普及・育成・強化はオリンピアン達に対しては各協会が既に行っています。これをパラアスリートが当たり前に受けられるようになったらもっともっと速くなるのではないかと思っています。そのために今インドやタイなどのアジアの国で障害のある人がスポーツをする環境を整える支援を行っています。
瀬戸:技術に自信があるからこそですね。
小池:競技人口が増えたらスター選手も現れるかもしれないですよね。
そうですね。アフリカ人がまだ走っていないので、まだまだ速くなる余地があると思います。彼らが義足をつけて走り出したら、彼らがゲームチェンジャーになる。今までアフリカで障害があるという理由で迫害を受け、生きづらい思いをしてきた人たちが世界でヒーローになれるチャンスがある。これは大きな変化につながると思います。
小池:障害のある人に対する見方を変える予感もしますよね。
瀬戸:こういうお話を義足のエンジニアという立場の方から聞けると思いませんでした。
やはり技術だけじゃ変わらないということは身に染みているので、何が何でもそこに辿りつきたいと思って活動しています。パラアスリートがオリピアンより速く走る日を絶対見たい。
小池:遠藤さんは「ギソクの図書館」という取り組みをされているんですよね。
はい、スポーツ用義足ブレードを子ども達に貸し出す取り組みを行っています。
ブレードの値段は20万円から60万円くらいして、しかも保険適用ではないのでなかなか買えないという現状があります。さらに子どもはどんどん背が伸びるので、買ったとしても次の年は自分の体に合わない可能性もあります。そこで、子どもたちが自分の好きなブレードを選んで、その場で履き替えて走れる場所を作りたいと思いました。ブレードで走れる世界一敷居の低い場所にしようと思って作ったのがギソクの図書館です。
一方で、ギソクの図書館を色々なところに作ってほしいという要望も多く受けます。子どもたちがここに来て走るのではなく、学校で友達と走ったり近くの公園走ったりできる環境を作ることを目指して次の取り組みを考えています。
瀬戸:敷居を低くするというコンセプトでギソクの図書館の取り組みを行っているからこそ、あまねく届けるためにもっとやるべきことがあるんですね。
価格的な敷居の低さに加えて、地理的な敷居の低さも考えなくてはいかないのですごく難しいところではあります。
本編では、スポーツ用義足を作る際のプロセスや、遠藤さんが発起人である、乙武洋匡さんが最新鋭の技術を搭載した義足を用いて歩行に挑戦する『OTOTAKE PROJECT』についてもお話を伺いました。義足製作の裏側には科学的なプロセスとチームのメンバーの想いが詰まっていました!