小池:髙田さんの研究は「会計監査の質」にかかわるものなんですよね。
髙田知実さん:
そうですね。私はいくつかの研究をしているのですが、「会計監査の質」を研究に落とし込むということは長らくやっていることです。
瀬戸:監査の質を上げるというイメージが全く湧かないんですが、どのように研究されているんですか。
質を上げるための研究と言うよりは、「どんな要因が監査の質を左右しているのか」ということを分析しようと努めています。
例えば、監査の質と関連していそうな要因として監査報酬が挙げられます。企業は公認会計士による監査を受けて初めて財務諸表を世の中に出す権利を持つことができる、いわば監査はステータスなんですよね。
この報酬というのがなかなか厄介で、専門性の高いプロセスなので有能な人を雇って適切な量の監査業務を行ってもらう必要があるから、報酬が低いと駄目なんですよね。
小池:ちゃんとチェックしてもらうためには、しっかりした監査法人に依頼してきちんと人数押さえてもらう必要があるんですね。
でも、高すぎると賄賂になってしまう可能性もあるんです。
瀬戸:こんなにたくさん報酬貰っているから大目に見ちゃう、ということが起こりそうですね。
監査人にとっては「今年も報酬をたくさんもらいましたが、来年もひとつお願いします」になるかもしれないですよね。
小池:「お主も悪よのう」という構造になってしまいそうです。
理論的に考えると、低すぎても駄目だし、高すぎても駄目そうですよね。でも報酬が高かった時に、本当に監査の質が損なわれているのかどうかって分からないですよね。いくら頭をひねっても答えは出てきません。
そこで私は、会社が公表しているデータを元にして分析をする実証研究という手法を取っています。この例で言うと、「監査報酬の多寡」と「監査の質と考えられるもの」との関連性を見ていきます。
瀬戸:これは研究じゃないとできないことかもしれないですね。
小池:現状問題ないとされている会計書類にも、不正が隠れている可能性ってありますよね。そう考えると「監査の質」の良し悪しを定めること自体難しくて、質が定義できていないと何が監査の質に影響を及ぼしているか分析するもすごく難しくなる気がするのですがいかがでしょうか。
すごく良い質問ですね。だからこそ私はもう10年以上「監査の質」と闘い続けています。今のところ、学術界あるいは監査の実務を行う人たちの間でも、監査の品を一意に定めることはできないだろうと言われています。
小池:「この監査の質は高かったです」と言い切ることができないんですね。
「どんな風に高かったの?」という話になってしまうんですよね。「ある観点から見ると質が高いと言えるけど、反対側の目線から見た時には違うように見える」という議論が付いてきます。ですから最近は、監査の質は多面的に議論したり捉えたりしないといけない
っていうことが大前提になってきています。