小池:シンプルなんですけど、行って帰ってきた距離がすごいんです。はやぶさが行ってきたイトカワという小惑星は、地球から3億km離れています。
瀬戸:想像すらできません。
小池:もう本当にピンとこない距離ですよね。そこに行って帰ってきたというのはすごいことですよね。行きっぱなしの宇宙探査船はよくあるんですが、3億km離れた小惑星に行って帰ってきたというのが、はやぶさのすごさの1つですね。
瀬戸:ちなみに人は乗ってなかったのですか。
小池:人が乗ることを想定した宇宙船として最も遠くまで飛行したのは、地球から約43.5万km離れた地点なので、3億km離れている場所となるとまだまだ技術的に難しいんです。
瀬戸:じゃあ機械だけで行って機械だけで帰ってきたんですね。
小池:そうです。地球にいるはやぶさチームと通信をしながら、3億kmの距離を旅してきたんです。
小池:2つ目のすごさは、ずばりエンジンです。
瀬戸:エンジンが違うんですか?
小池:実ははやぶさでは、当時としては画期的なエンジンが使われたんです。それまでは燃料を燃やしてその推進力を使う化学燃料ロケットというものが使われていたんですが、実は宇宙探査という観点では非常に燃費が悪かったんですね。
はやぶさは機体が小さいので、3億km離れた小惑星に行くための化学燃料なんてとても積めなかったんです。
瀬戸:ではどんなエンジンを使ったんですか?
小池:そこで開発されたのがイオンエンジンと呼ばれるもの。僕も正直、原理はあまりよく分かっていないんですが、キセノンという原子をイオンにして噴射することで、その推進力で飛んでいるらしいです。このイオンエンジン、非常に燃費がいい。
どれだけすごいかというと、3億km離れたイトカワに行って帰ってくるまでに必要なキセノンガスはたった66kgなんです!!すごくないですか!?
瀬戸:えー!…それは少ないってことですか?
小池:化学燃料と比較しましょうか。化学燃料ロケットで同じことやろうとしたら、770kg必要になります。
瀬戸:へー!だいぶ軽く済むんですね。
小池:そうなんです。イオンエンジンを使えばスペースも重さもだいぶクリアできる。はやぶさにおいて実証したかったことの1つに、「宇宙探査船にイオンエンジンを使う」ということも含まれていました。
小池:はやぶさのすごさ3つ目は、サンプルの取り方です!
はやぶさの大きな目的は、イトカワからサンプル、いわば星の一部を持って帰ってくることだったんです。
サンプルを取る一連の行動のことをタッチダウンと呼ぶんですが、そのタッチダウンの方法はシャベルで掬うとかではなかったんです。
瀬戸:どうやってやるんですか?
小池:はやぶさの機体にはサンプルホーンというホースのようなものが付いていて、まずそのホースの先端をイトカワに接着させる。次に、接着した瞬間に弾丸をイトカワに撃ち込むんです。
瀬戸:撃ち込むんだ!
小池:イトカワに行くまで、星の表面が砂なのか岩なのか、砂利なのかわからないんですよね。だからはやぶさチームは、どの状態でもサンプルが取れる方法を考えた。弾丸を撃ち込んで、ホースの中で飛び散った破片を回収する戦略だったんです。
瀬戸:イメージだと吸い込む方がいいのかなと思ったんですが、吸えないものがあるんですかね?
小池:空気がないです。
瀬戸:あ、そっか(笑)
小池:そう、宇宙空間っていうイメージがなかなか難しいんですよね。だから地球上で無重力を再現しながら実験をして、無重力でもちゃんと動き得るシステムを構築していったんです。