小池:古舘さんの著書『エネルギーをめぐる旅―文明の歴史と私たちの未来』の中で、人類の歴史の中にエネルギー革命と呼べるものが5つあると紹介されています。
古舘恒介さん:
エネルギー革命と聞くともしかしたら「石炭から石油へ」みたいなものをイメージするかもしれないのですが、私はもっと大きな人類史における時間軸で捉えています。その意味で、火の獲得が最初のエネルギー革命であると考えています。
小池:人類が火を最初に使い始めたのがおよそ百万年から百五十万年前、南アフリカと推定されています。
百万年から百五十万年前ぐらいというといわゆるホモサピエンスではなくて、その前の祖先が火を獲得したと考えられています。
火を獲得して最初にやったであろうことは、自分たちが住んでいる洞窟の前に火を置いて寝ている間に猛獣を近寄らせないようにしたり、寒い時に暖を取ったり、そういう直接的な火の利用であったと考えられます。
小池:そういうイメージが強いです。
もちろんそれも大事なのですが、エネルギーの視点で物を見る時にはその先が非常に重要で、人類は火を獲得してから今に至るまで一貫してそれを料理に活用してきているんです。
今の人類は、生ものを食べるだけでは生命を維持するのに必要なエネルギー量は取れないと言われています。
小池:火を使うことを前提とした身体になっているということですね。
例えば、火を使うことで雑菌類が死滅して免疫系統にかかるエネルギー消費量は減るわけです。効率よく吸収できるようになる。さらに、火を使って加熱することによってエネルギーが高まる形で成分が分解されてより消化しやすくなり、エネルギー吸収の効率が良くなる。
結果として何が起こるかというと、短い胃腸でも必要なエネルギーを吸収できるようになるんですね。例えば牛は非常に長い胃腸があって胃が四つありますよね。ものすごく長い時間をかけて草を咀嚼して、なんとかエネルギーに変えていくんです。
小池:他の動物は消化にかかるコストがものすごくかかっているんですね。
実際に食事で取り入れたエネルギーのインプットに対して、消化のためにエネルギーを使ってしまうと、他のことに使えるエネルギー量が減ってしまうわけですね。
でも人類は火を使うことによって、かなりの部分をアウトソーシングしているんです。
人類は火を使って効率的にエネルギーを吸収できるようになった分、脳を動かすためにエネルギーを使っています。
結果として、火を使うようになった人類の祖先から、どんどん脳が大きくなるという進化をしてきて今に至っている。人類と同じサイズの哺乳類は平均して、脳の大きさは人類の五分の一で、胃腸の長さは2倍とされています。
瀬戸:それだけ人類は脳を動かすためにエネルギーを使っているんですね。
料理で火を使うことによって効率的にエネルギーを吸収できるようになりそれが全部脳に行ったのが、今に至る人類進化の基本になっているんです。
瀬戸:私たちは火に生かされてるんですか!もう既に面白いです。