2023.01.13

読むサイエンスラバー!東京工業大学・益一哉学長が語る”科学”と”工学”

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LeaLがお届けしているPodcast”サイエンスラバー”。2023年最初のエピソードでは、東京工業大学の益一哉学長が登場!工学についてや東工大の最新情報まで、たっぷりとお話を伺いました。今回はその一部を記事としてお届けします。
前編では、東工大の名前にも入っている”工業””工学”とはどのような営みなのか、科学との違いも交えてお話しいただきます。
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真理の探究と人とを繋ぐのが”工学”

小池:僕は農学部の出身なのですが、高校生のときは、工業とか工学部みたいなものって、あんまり具体的なイメージが湧かなかったんですよね…。
東京”工業”大学には”工学”という言葉が入っていますが、益さんは科学と工学ってどう違うと考えますか?

益一哉さん:
工学の工の漢字を思い浮かべてみてください。さまざまな説がありますが、最初に書く横棒の意味は、”真理の探究”。 ”なぜ物が落ちるんだろうか”といったことを解明することです。下の横棒は”人間の社会”と言われています。そして上の横棒と下の横棒をつなぐ縦の棒が、工業や工学を表すのです。真理の探究と人とをつなぐ、これが”工”という漢字に込められた意味だと言われています。
だから工学は、真理の探究から人の役に立つモノやコトを作るものものだと考えればいいと思います。

瀬戸:三画の簡単な漢字にそんな深い意味があるんですね。
小池:そうなると、科学があってそこから工学へ応用していくという印象を受けるのですが、科学に向いている人、工学に向いている人はそれぞれどんな人なんでしょうか?

科学という真理の探究があって、そこから何か人に役に立つモノをつくるのが工学という上下の関係ではなくて、科学と工学が両輪と考えることの方が僕は重要だと思っています。
例えば、僕は半導体集積回路(IC)の研究をずっとやってきました。半導体の材料はシリコンウェハーといって、丸い円盤のような形をしているものです。集積回路を作る工学の分野では、そのシリコンウェハーの表面を平らにしていくんですが、その技術がどこまでいったかっていうと、実は原子レベルで今の集積回路は平らなんですよ。もう原子の目で見たときに列の乱れがないくらい平ら。工学で集積回路を作ろうとして、シリコンウェハーの表面を平らにしなくてはいけないと突き詰めていったら、いつの間にか原子レベルで平坦になっちゃったんです。工学、つくる方を極めていけばいくほど、原子がもう究極までいったんですね。そうすると平らな原子の表面の現象はどうなるという、また原子・分子の真理の探求にフィードバックされていく。
つまり、人のためにモノを作ると突き詰めていくと、今度は科学の最も根本の原子がどうなっているかというところに繋がっていきます。技術を極めたらまた科学の真理も追究できる。両輪で進んでいくものだと考えています。

小池:なるほど。工学的なニーズを突き詰めて、その先に新しい科学があるという話はすごく知れてよかったです。でも、学生時代を含めて僕の周りも、そういう意識を持った人はあまりいなかったと思います。

そうですよね。僕らはよく匠っていう言葉を使うじゃないですか。東工大に入る人とか、技術を極めている人はすごく憧れる言葉なんですけど。
でも匠って何かを追究する人でしょう?それって別に科学とか工学だけではなくて、スポーツやる人だってそうだし、芸術をやる人だってそうだし、何かを追究したい、突き詰めたいっていう人すべてが持つ気持ちじゃないですか。何かを突き詰めようという気持ちは別に科学者だけでも工学者だけでもなく、スポーツマンでも芸術家でも皆が同じ気持ちだと僕は思います。
これは工業に限らず、何事も自分の知らないことに興味を持って追究したいという気持ちを持っている、持つことの方が大事で、たまたまそれが工学や科学の分野に持った人が、たまたま東工大に集まっているということだと僕は思います。

小池:僕も突き詰めるという営みが大事だと思っています。科学とか工学とか芸術とかを切り分けるのではなくて、まず人間の重要な営みの一つとしては突き詰めるっていうものがあるんだなというのは益さんと同じ思いで、うれしい気持ちになりました。
瀬戸:でも…大学に入る前から何かを極めることが決まってたり、目指すところが決まってないといけないのかなと思ってしまうんですが、そこはどうお考えですか?

決まっている必要はないと思います。人によって最初からやりたいことがある人もいるし、いろいろやってチャレンジして、変わっていくということもありますよね。ですから、工学をやりたい人が小学校中学校の時からそういうことに興味を持ってないといけなくて、そういう人しか工学や科学系の学部に行かないというのは、それこそステレオタイプ的な見方だと思いますよ。

小池:小さい頃から生涯をかけて取り組みたい研究テーマを見つけなくてはいけないというわけじゃなくて、何かを突き詰めるというマインドセットみたいなものを持っていることがすごく大事なのかなと思いました。


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