立川高校では、SSHに指定された2018年度から課題研究を行なっていました。テーマは様々で、自然科学のみならず社会科学やスポーツ、芸術について探究する生徒もいます。
「テーマは何でもよくて、自分が興味のあることの課題を見つけて疑問を持って、仮説を立てて検証していくことが大切です。“肌荒れのしない日焼け止め”をテーマにした生徒は、臨海教室を経験して思いついたのかもしれませんよね。発想は自分が生活している中にきっかけがあるのだと思います。」
生徒がテーマを決めたら、「本校では、校長も含めた教員集団で生徒を見る」と鈴木さんは教えてくれました。
「テーマを検証するための実験デザインなどは、教科にかかわらず教員集団が関わります。生徒が立てたテーマに詳しい教員がいるわけではありません。私は大学で生物を専攻していましたが、バッチリそこに当てはまるテーマを立てる生徒がいるわけではない。私たち教員の役割は“伴走者”です。
生徒と一緒に考えて、生徒にアドバイスをするだけです。答えを教えるのではなく、答えを知っていそうな人を教えるだけです。」
鈴木さんはまた、「生徒にはどんどん失敗してほしい」と語ります。
「中には勇気を持って企業の人や研究者に連絡する生徒もいますが、けんもほろろになる子もいるだろうと思います。でもそれは失敗じゃない。全てプラスの経験だから“失敗最高”と思って、何でもやってみてほしいですね。」
すでにSSHとして探究活動に力を入れていた立川高校。鈴木さんにSSHと創造理数科の取り組みに違いはあるのか伺いました。
「違いがあるというよりも、創造理数科は、これまでのSSHプログラムをより深化させた取組を行うと思っていただければと思います。分けることはできません。普通科との探究に関するカリキュラムの違いは、創造理数科では、1年次に「理数探究基礎」と2,3年次に「理数探究」を合わせて5単位あることです。3年生になっても課題研究に全員が取り組みます。」
授業の中で課題研究を行う意義を、鈴木さんはこのように語ります。
「放課後は、生徒たちはやっぱり部活等をやりたいじゃないですか。立川高校だと委員会活動もとても盛んですし。だから授業の中に組み込むのが大事だと思います。それでも飽き足らない生徒は放課後も取り組めばいいと思いますね。
研究活動を授業で保証することで、課題にじっくりゆっくり取り組めます。何かキラリと光るものを見つける生徒が出て来てほしいと思います。」
鈴木さんは、「様々な分野で、最先端のことをやっている人たちに接する機会をつくりたい」といいます。
「八丈島でのフィールドワークやアート・セッションに加えて、大学の講演会も多く、少し盛りすぎているかもしれないと思うこともあります。高校生活の前半では、色々なことをシャワーのように浴びて、一つでも関心のあるところがでてくればいいなと思っています。すごく面白い学校を私はつくりたいな。」
続けて、立川高校に通う生徒に対する思いを語ってくれました。
「研究を続けるにしても企業で働くにしても、立川高校を卒業したみなさんには周りを巻き込んで物事を展開していける人になってほしいです。創造理数科やSSHとしての取り組みは、単に理数系教科の教育にのみ力を入れているわけではないということは、改めて強調したいですね。」
今回も、「あなたにとって学びとは?」という質問を鈴木さんにぶつけてみました。少し悩みながらも、マスターを出ている鈴木さんらしい答えを話してくれました。
「人と接するときに、”サイエンスのことを話せないのは論外だけど、サイエンスの話しかできないのは面白くない”と思うんですよね。学びって経験だと思うんですが、自分が経験してきたことがあると人とつながることができるんです。経験して学ぶこと自体が面白いし、人とつながることによってまた新しい経験が生まれる。だから、学びは人生を面白くしてくれるものだと思っています。」
これまで探究活動やプロジェクトベースドラーニングの重要性が語られるたびに、「結局受験勉強で中断せざるを得ないんだろうな」と思っていました。
しかし立川高校は進学校でありながら、創造理数科は3年生でも課題研究を続けます。つい先日、大学入試の過半数が推薦・総合型の試験となったとのニュースが話題になりました。偏差値のみを重視する時代から脱却できる準備もだんだん整っていくのではないかと感じました。
執筆:佐藤春恵